ライター/角田真一

ゴミ屋敷の話

埼玉県さいたま市北区のアパートでの案件。

室内で高齢女性が孤独死してしまった部屋の遺品整理の依頼だ。
この案件、ただの遺品整理ではなかった。
玄関を開けるとそこにはゴミの山が立ちはだかっていた。
ゴミの高さは人の背丈を軽く超えている。
180センチはある荷物の山が部屋の奥までずっと続いているように見える。
見えるという表現は、実際部屋の奥まで入って行けないのでそんな感じがするといったところだ。

間取りは2LDK。
玄関を入った左の洋間で女性が亡くなっているのが発見された。
警察は共用廊下に面した窓ガラスを破って、この部屋に侵入したらしい。
それもそのはずだ。室内の廊下はゴミで埋まっていて廊下から洋間に入ることはできないし、遺体の搬出も不可能だ。

1日目

遺品整理の依頼を受けたのは、8月の2週目。夏真っ只中。
玄関前に立っただけで漂ってくる腐敗臭。
この部屋に入るには、防護服と防臭マスクが必要だ。そして長靴も。手には厚手のゴム手袋をはめなければならない。この暑い中、そんな格好で作業出来るのか不安がよぎる。
外気温は35度を超えており、室温はそれ以上の暑さ。
長袖の防護服に身を包み万全の備えをした私たちの身体は立っているだけで汗だくだ。
まだ何もしていないのに、ハァハァと息が上がるほどに暑い。

玄関前で、お線香を焚き合掌する。
遺品整理作業前のいつもの手順。
今回はそのお線香をいつもより多めに焚く。
臭い消しの効果があるからだ。

とりあえず、玄関前に山となった荷物の分別からはじめた。
初日、8時間作業をした結果、玄関前の山が1mほど中に引っ込んだだけ。
スタッフの間に言葉はなかった。
スタッフ全員、この状況に戸惑っていた。
この日から私たちは、この案件完了まで毎日この現場に通うこととなった。
完了目標を7日間に設定した。
2LDKの遺品整理なら本来、半日で終わる。

2日目

翌日も同様に玄関の荷物を掘り進める作業だ。もうこれは分別ではない。
完全に掘り進めているといった動きをしている。
手には大きくて丈夫なスコップを持ち、後方に立つパートナーの持つゴミ袋にひたすら入れていく。
掘り進めながら気付く。この荷物、食品などの生ものが多い。
掘り進めながら出てくる大量のゴキブリ達。
大きさは小さいが数が多い。
小指の爪ほどある大きさのゴキブリ達が天井に逃げ、天井と壁のちょうどコーナー部に溜まる。天井の四隅にはすでに100匹近いゴキブリが下を見下ろすように溜まっていた。

ザワザワと動くゴキブリ、防護服による暑さ、マスクをしても隙間から入ってくる生ゴミの悪臭。
どれも私たちの気力を削ぐものだった。
30分作業するごとに30分休憩する。とてもじゃないが普通に作業できる状況ではない。
身体も心も持たない状態だった。

2日目を終えて、廊下半分ほどが進んだが、まだまだ終わりは見えない。
作業後に打ち合わせをする。とりあえずゴキブリをなんとかしなければならないということになった。大量にゴキブリ駆除剤を購入する。煙で害虫を駆除するアレだ。
作業を終えた夕方、とりあえず3個ほどセットし、部屋をあとにした。
さらなる悲劇が翌日から始まった

3日目

翌日、現場に到着し、駆除効果を確かめる。
玄関下には何百匹ものゴキブリが散乱していた。
天井を見上げるとそれでもなお、生き延びたのが数十匹。
しかし、昨日よりも弱っている。ポトリ、ポトリ。
最悪だ。ゴキブリが天井から降ってくる。

私たちはやってしまったことに気付いた。

ゴキブリはそのまま逃がしておいたほうが良かったのだ。
弱らせることで、天井に逃げたゴキブリが作業する私たちの頭に降ってくる。
作業員達のやる気が完全に失われていくのが分かる。
それでも、作業を進めなければならない。
作業前に話し合い、弱ったゴキブリはスプレーの駆除剤で仕留めながら作業を進めることになった。
追加でスプレーを10本程度購入する。

暑さと精神的苦痛で自分が何をやっているのか分からなくなってくる。
ただひたすら目の前にあるモノを掘り出しては袋に詰める。
30分作業して、休憩。その繰り返し。
しかし、徐々に休憩時間のほうが長くなっていく。
精神的苦痛がモロに影響している。
自分たちの身体はすでにゴミの臭いだ。
防護服を脱いで、身体の臭いを嗅ぐと、現場の悪臭が身体に染み付いていて不快になる。

4日目

ここにきてようやく遺体が発見された部屋にとりかかる。
玄関から見て左の洋室。衣類の山だ。衣裳部屋だったのだろう。
天井からゴミ山までのスペースは50cmほどしかない。山を登ってかがんでいないと天井に頭をぶつけてしまう。その荷物をひたすら袋詰めしていく。
徐々に山が下がっていき、部屋の中央付近の山を袋詰めしている時、荷物の感触が変わった。
ヌルッとした感触。ゴム手袋をした手でも分かる嫌な感じだ。
手をすくいあげると、手の中には血液のまみれた髪の毛の束。
ここで亡くなっていた証拠だ。
その瞬間マスクの隙間から今までの悪臭を数倍濃くしたような臭いが鼻に入ってくる。
声を上げたい気持ちを抑え、冷静さを装い後ろのスタッフに声をかける。
「現場が見つかったよ。袋を2重にしてくれるか。」
スタッフもこの言葉をすぐに理解し、袋を用意した。
他の荷物よりも丁寧に、手の中にすくい上げた身体の一部を袋に入れる。
この場で改めて合掌。
そしてその周辺の荷物を袋に詰める。
他の場所にはないネットリとした湿り気を持った荷物に、故人の名残があるようで雑には扱えない。しかし、腐敗臭が容赦なく鼻に流れ込んでくる。
15分ほどかけて周辺の一部荷物を回収した。

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ここで一旦休憩。
遺体の発見された箇所を回収できたことで、スタッフ一同少しだけ安堵の表情を浮かべる。
遺体の発見された場所は特に気を遣う。
感染症の危険があることも一因ではあるが、何よりも故人の冥福を祈る気持ちが強い。

休憩を挟んで、気持ちを切り替えて回収作業を進める。
この洋室は衣裳部屋だったのだろう。とにかく衣類が多い。
といってもクローゼットにハンガーで吊るされた衣類はほとんどない。
ただ雑然と山積みになっているだけだ。
しかも封も開けられていない下着やシャツ、タグがついたままの上着やズボン、スカートが大量にある。
認知症などが原因で起きる症状の一つで、毎日のように出掛けては大量に買い込んでくる典型的な例だ。他の部屋の山になった食料品も同じように買い込んできたのだろう。
親族が介護サービスなどを利用しながら、この女性のケアをしていればここまでにならなかったのであろうが、この女性は親族にケアしてもらうことが出来なかったのだろうか。
ゴミ屋敷は住人の怠惰で出来たものだけではなく、認知症という病気によって起きてしまうケースも多いのだ。

5日目

連日と同じように、ひたすら荷物を掘り進める。
午後になって廊下の荷物がほぼ無くなりキッチン前に辿り着く。
生ゴミの悪臭が一段と強くなる。同時にゴキブリの数も増えていた。
ここで改めてゴキブリ駆除剤を使ってゴキブリをあぶり出す。
荷物を掻き分けるたびにゴキブリが出てくるので、精神的に苦痛だからだ。
この日の作業はこれで終了。

6日目

玄関を開けると予想通り大量のゴキブリの死骸。
普通に見たらものすごい惨状なのだけれど、さすがに感覚が麻痺してきたのか、大量のゴキブリを見ても心が動じなくなった。
徐々にペースがつかめてきたのかキッチン周りの回収も順調にすすみリビングへ。
ゴミ屋敷の片付けを数多く経験すると理解できるのだが、奥へ行くほど汚い荷物が少なく、荷物の量も手前に比べて少ないのが特徴だ。
住人はゴミ屋敷にするつもりはまったくなく、部屋の奥から荷物が増えていって、手前に逃げるようにして場所がなくなり、挙句の果てに玄関にも入れなくなるといったケースは多い。
奥にある荷物はそのままの状態で何十年も経っていたりするので、手前と比べて一時代くらいのズレがあったりする。

7日目

引き続きリビングと奥の和室を片付ける。
遺品整理では貴重品の選別が重要な作業のひとつだ。
ゴミ屋敷において、貴重品探しは困難をきわめる。
一般的な家庭の家具配置の上に、ゴミが山積みになっているケースが多いため、まずゴミだけを搬出して一般的な家財状況に復元する。
その上で貴重品を探すのだ。
しかし、片づけが苦手な方の多くは、貴重品を金庫やタンスなど普段動かさない家具の中ではなく、普段から持ち歩けるカバンなどに入れているケースが多いため、仕分けに時間を要する。
この現場でも大小あらゆるカバンから現金や通帳、印鑑、写真などの貴重品が出てきた。ゴミ屋敷だけにカバンの数も一般家庭の数倍はある。

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最終日

最終的に搬出した荷物量は2トントラック7台に及んだ。
一般家庭の7倍もの荷物量だった。
玄関を開放し、リビングの掃きだし窓を開けると部屋を風が通り抜ける。
荷物の無くなった部屋。
淀んでいた空気が流れていく。
最後に清掃をしてこの案件は完了。
改めて全員で合掌し、この部屋をあとにした。

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