ライター/角田真一



もし、あなたの家族がゴミ屋敷に住んでいたらどうしますか?


これは、実際にあったゴミ屋敷の片付け事例です。
ゴミ屋敷になってしまった背景と、本人とその家族の当時の状況や思いを聞きなおし、ゴミ屋敷の片付けに至ったプロセスについて書きました。
※本記事は、ご本人の了承のもと、プライバシーに配慮してご紹介します。



ゴミ屋敷の住人Aさん(30代・女性)


Aさんは、埼玉県内の賃貸アパート、間取り1DKに住む女性。
大学を卒業し、23歳でメーカーに就職。普通のOLとして働き始めた。
就職と同時に一人暮らしをはじめ、真面目に働き、生活は順調だった。
そんな女性がどうしてゴミ屋敷で暮らすようになってしまったのか。



社会人5年目で退職。そこからフリーター生活。さらに引きこもり状態に。


Aさんは、社会人5年目に仕事を退職。
理由は、職場の人間関係からくるストレスだった。
それからは、なるべくストレスを感じないよう、フリーターとしてアルバイトで生計をたてはじめた。収入は減ったものの、ストレスを感じないこの生活が当時のAさんにとっては満足だった。
しかし、アルバイトの仕事も次第にストレスを感じるようになり、アルバイトも辞めてしまった。そこからは無職となり、貯金を切り崩す生活。



ご両親が実家に戻るよう説得するも、今の部屋を出ようとしないAさん


無職になったAさんを心配するご両親は、月に何度かアパートに顔を出しては、実家に戻ってくるよう話をしていた。しかし、Aさんは、これまでの生活に執着し、実家に戻ることを拒否した。

母親はアパートに顔を出すたびに、部屋が散らかっていることを気にして、部屋の片付けや掃除を手伝うこともあった。
無職のAさんは、コンビニばかりの食生活で、布団は年中敷きっぱなし。洗濯は週に1回すれば良いほう。お風呂にもあまり入らないので、着替えるのも週に数回しかない。掃除はやらない。典型的なひきこもりの生活だった。

そんな生活を見たご両親は、月に何度も訪ねては実家に戻るよう説得し続けた。
次第に強い口調で言い争うことも増えていった。
Aさんがご両親に決まって言うセリフは「今は少し休みたい。放っておいて」だった。



理想の人生とのギャップに苦悩する


「そんな子だと思わなかった…」
Aさんは、いつの頃からかそんな声が聞こえるようになっていた。
誰が言っているのかはわからない。でも、たしかに聞こえる。
ご両親は、一度もAさんにそんなことを言ったことはなかった。
他に訪ねてくる人もいない。
知り合いとも連絡はとっていない。

(“そんな子”とは、私のどの部分を言っているの?)

大学を出たのに、フリーターになったこと?
自分が弱くて無職になったこと?
だらしない生活で部屋が汚いこと?

どれもそうだと思えるし、自分としてはどれも言い分があることだった。

ストレスでつらかったし、
生活のためにはアルバイトでもしかたないし、
いったん休んでから考え直したいし、
気力がなくて掃除なんてできないよ。

言い訳をすることで自分を守るのに必死だった。
でも、自分に対する失望の声は消えなかった。
だから、こんな状態でも今の生活にしがみついて、すぐに持ち直して周りを安心させたい。
そう思っていた。

(もう少し休めば、きっと元気になる。)
Aさんは、なかなか気持ちが戻らないことに、焦りが募っていた。



ご両親の覚悟


ご両親は、今までに何度も部屋を片付けてきた。ゴミを出して、掃除をして、食料を買ってきて、部屋の状態を少しでも良くしようと試みてきた。しかし、今もまた、冷蔵庫の中は腐った食べ物で埋め尽くされている。何度やっても同じ状態に戻ってしまう。
食器や調理器具には、ゴキブリやハエがまとわりついている。
「こんな汚れたものを使わせていいのだろうか?」
とてもじゃないがそんなことをさせたくないと思った。
いったんすべてをリセットして、助けてあげたいと思った。


そこで私たちに相談が入る。
現地を見て、片付けの見積もりをする。金額を提示すると「実家に連れ戻したい」という強い思いがあり、やりたいというご意思を確認した。しかし、Aさんは首を縦には振らなかった。

『こんなにたくさんのものを家に持って帰れないでしょ?』とAさんはつぶやいた。
父親は深いため息をついてAさんの顔を見た。
「大切なものだけにしようよ。大切なものがあれば教えてくれる?」と母親が優しく問いかけると、Aさんはしばらく何も答えずただ立っていた。
そしておもむろにしゃがみこんで足元の荷物をあさりだした。


ぼんやりとこの辺りに大事なものがあるような気がするけれど、定かではなかった。
手に掴めるものは、チラシや弁当の空き容器、ビニール袋、ペットボトル、そして脱いだまま放置した下着や靴下。
どれも両親に見せて大切だと言えるようなものではなかった。


(でも…この部屋には、今まで私が頑張って生きてきた痕跡がたくさんあるんだ。)
(新生活のために購入した冷蔵庫や洗濯機。初任給で買った洋服やバッグ。仕事で使っていたパソコン。どれも大切だと思える。まだまだ使える。)

しかし、どれもホコリをかぶって、他のゴミに埋もれかけている。

(大事なものだけど、今はそれを見るのがつらい。見ているとつらかった時の思い出が浮かんでくるから。)

でももし、それらすべてを処分してしまったら、自分にはいったい何が残るのだろうか。この先、社会に復帰できるのだろうか。
彼女はそれを一番怖れていた。

(今まで頑張ってきた証がそこにあるから、それを見ていれば、いつか気持ちが切り替わってまた頑張れるはず。)

(それがなくなった時、今の私を支えるものがなくなってしまう。)

(このままじゃいけないのはわかっている。)

無言で荷物の山をかきわける。手をとめ、私たちのほうを見る。溜息をつき、虚ろな表情。
(ほかに方法はないの?)とAさんの目は語っている。


私はその問いかけに答える言葉がみつからず、私はご両親の顔を見て答えを求めていた。

Aさんにとっての希望がそこにあることをご両親も理解していた。
これまで何度、片付けを手伝っても上手くいかなかった経験から、Aさんがこの部屋にもつ(この部屋にあるものに対する)執着をじゅうぶん分かっていた。

これをすべて撤去してしまったら、子供がどうにかなってしまうかもしれないことは、ご両親も怖れていた。
しかし、これまで片付けては元通りを繰り返してきたことが、ご両親を精神的に疲弊させてきたことは間違いない。
もうこれ以上付き合い切れないというのが本音だった。
これ以上、この状態が続いたら、子供も自分たちもおかしくなると思っていた。



ご両親の意向で全処分を決意。


ご両親はAさんの反対を押し切り、依頼を決意した。
片付けの当日。
片付けにはAさんも立ち会った。片付けている最中も、Aさんはそばでずっと作業を見ていた。時々、目についた物を自分で拾い上げては、実家に持ち帰るために用意した段ボールに入れていた。
片付けた荷物は全部で2トントラック2台分の量だった。普通に住んでいたらそんな量はとても出る量ではない。
片付けは1日で終わった。


部屋の片付けが終わって、ご両親はAさんの精神状態を一番に心配していた。
母親は、Aさんの肩や背中を何度もさすりながら、「これで安心だね」と語りかけていた。

この部屋は、近々、退去することになっていた。
ご両親はAさんにしばらく実家でゆっくりとしてみようと説得し、Aさんも事前に了承していた。

荷物がなくなった部屋は、それでもまだ腐敗した食品のニオイが漂い、ゴミや液体などが床に染みついて跡が残っている。
子供をこの部屋に住み続けさせたいと思う親はいないだろう。
窓を開けても風が抜けない部屋。
その澱んだ空気は、ひどい生活の記憶ばかりを思い返させるような雰囲気が漂っていた。



Aさんからの手紙

お客様からの手紙



拝啓 便利屋アルファの皆様
以前は、お片付けのお手伝いをしていただきありがとうございました。
今回、お片付けをしていただいたことで、今の私は生まれ変わった気分でいます。
あのまま、あの部屋に住んでいたら、きっと近いうちに病気になっていたでしょうし、すでに精神的には重い病にかかっていたようにも思っています。
両親に片付けを手伝ってもらっていたことも、実家に戻るよう説得されていたことも、当時の私には、余計なお世話にしか感じられていなかったことが今はとても不思議な感覚です。
多分、それは自分がひとりで生活出来ていたプライドがあってそう思っていたのかなと思います。
片付けの費用は、両親が立て替えてくれていたのですが、あの後、費用を返しました。
実家に戻って、両親に甘えるようになってから、もっとだらしない自分になるんじゃないかとしばらく不安でいましたが、最近またアルバイトを始めるようになって生活費を親に払いながら暮らしています。
だから、前よりはマシな人間になった気がします。部屋も汚さずに生活できています。
アルファさんに片付けをしてもらっている最中は、正直、アルファさんをひどい人達だと思っていました。
大切にしていたものをあっさりと処分してしまったので。
でも、あの後、私のものが何もなくなって実家に戻り、母が泣きながら私に「ごめんね」と言った時、色んな人の想いが理解できた気がしました。自分ではまだなんとかなると思っていたけれど、周りから見たら本当に大変な状況だったんだなと。
母は私のものをすべて捨てたら、きっと私が命を落とすんじゃないかと心配していたと思います。
母がそんな覚悟でいたことを思うと申し訳ない気持ちです。
片付けが終わって放心状態だったので、当時の記憶があまりありませんが、実家に着いたときの安堵感は今も覚えています。
つらい時に支えてくれる人がいることをとても幸せに思います。
助けてもらった経験があるから、前よりも人にも優しくできるような気がします。
本当にありがとうございました。
大変なお仕事だと思いますが、これからも頑張ってください。
敬具
(Aさんの氏名)





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